対談企画:マーズ・ヴォルタ〜
2008年来日公演と『ゴリアテの混乱』

edited by レイランダー・セグンド 2008.June

la civilisation faible
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前回の対談から1年と数ヶ月。本当は4thアルバム『ゴリアテの混乱』(1月下旬発売)についての対談を行なうつもりだったのが、当方の怠惰によってずるずると時が過ぎ、そうこうしているうちに来日のニュースが。
来日までには間に合わせようと思いつつ、それも叶わず。ならばいっそのことライヴのレビューと併せた記事にしてしまえ、ということで、再びマーズ・ファンの盟友TK氏(レイランダーの元バンド仲間、元ドラマー)に登場願い、一緒に観に行ったライヴともども、『ゴリアテ』後のマーズを語る、という形の対談に相成りました(バンドについての概説は前回の対談をご参照ください)。
6/13、新木場スタジオ・コーストでのセットリストは以下のとおり。
 1 INTRO SONG(不明曲)
 2 VISCERA EYES
 3 WAX SIMULACRA
 4 GOLIATH
 5 OUROBOROUS
 6 (不明曲)
 7 TETRAGRAMMATON
 8 ABERINKULA    ・・・・(アンコールなし)
上記はあくまでレイランダーの記憶に基づくもので、当日なにぶんにもアルバム・タイトル同様
「bedlam」(錯乱)状態だったため、部分的に勘違いがあるかもしれないことをお断りしておきます。





RS=レイランダー TK=レイランダーの友人

RS:

おつかれ〜。

TK:

いやー、おつかれ。すごかったな。

RS:

わかってはいたけど、すごかったな。YouTubeなんかでビデオは嫌というほど観てるんだけど、やっぱり生は違う。当たり前だけど。

TK:

音もよかったなー。

RS:

音はね、今時のライヴはみんないいらしいけどね。大音響だったのに、あんまり耳がキンキンイってなかったもんな。

TK:

俺はイってたぞ。

RS:

あ、マジ?

TK:

鼓膜が老化してんじゃねえか、それ?

RS:

やべーな、そうかもしれん。・・・ってことで対談終了すっか。

TK:

こらこら(笑)

RS:

冗談だよ。しかし何から語ればいいのやら。

TK:

ドラムからだろう!

RS:

やっぱりそうくるか。上手いと言えば全員上手いのはわかりきってるんだけど、トーマス・プリジェンの存在感は予想以上だったな。

TK:

全体を仕切ってるのはあくまでオマーだけどさ、そのオマーが完全に、トーマスの力量に任せ切ってる感じじゃん。最年少だってのに。

トーマス・プリジェン加入の意義 ThomasPridgen

TK:

ライヴよりちょっと戻って、アルバムの方の話していいか?

RS:

どうぞどうぞ。

TK:

最近気づいたことなんだけど、俺はバンドものの音楽を聴く時にはやはりドラマーの立場から聴いているんだよね。ドラムが良くなかったり、手を抜いてたりするとどうも駄目なんだな。

RS:

困った人種だな、ドラマーって。

TK:

そう(笑)。で、俺は実は『アンピュテクチャー』(3rdアルバム)を、前の2枚ほど聴いてない。何となく1枚目、2枚目と比べて物足りなく感じてしまう。その理由は…

RS:

理由は?

TK:

セオドアが手を抜いているんだよ。

RS:

それは・・・そうなのか、やっぱり?(笑)

TK:

ドラムとしてあんまり面白みがないんだ。1枚目、2枚目は斬新なアイデアがちりばめられているのにね。3枚目ではあまりやる気がなかったんだろうと思うよ。

RS:

実際そういう噂が伝わってきてたよね、脱退の後しばらくして。

TK:

そつなくは叩いているけれど、とりあえずしょうがないから叩きましたというプレイ、内容なんだ。セオドアは器用で上手いんで気づきにくいけど、俺もドラマーのはしくれとして、それは聴けばわかる。こんな感じで叩いときゃ文句はないだろ、という傲慢さが感じられるんだ。バンドの一員というより、上手くて感じの悪いスタジオミュージシャンみたいというか。

RS:

うーん、言われてみるとドンドンそんな気がしてくるな(笑)。
確かに俺も『アンピュテクチャー』と『ゴリアテ』では、なんかサウンド全体の温度が違うな、とは最初から感じたよ。それはプレイの違いに由来するというより、険悪な関係になってたメンバーを追い出して、バンド全体が明るい雰囲気になったからだろう、くらいに思ってたけどね。ドラム・プレイそのものの質がそんなに違うとは、さすがに気がつかなかったよ。ただただ「この人(セオドア)やっぱ上手い」としか思わなかった。

TK:

もし『ゴリアテ』でもセオドアが叩いていたら、おそらく3枚目とそっくりな作品になっていた気がするよ。内容自体は3枚目の時点で出来上がっていたらしいしさ。
『ゴリアテ』でトーマスは本当に頑張っている。曲を理解し、曲をさらに高めようとする意識が感じられるもん。

RS:

ちょっと手数が多いけど(笑)。

TK:

ジャズ出身だからね。それは彼のスタイルだし、センスがいいから俺はあまり気にはならないね。
それどころかさ、『ゴリアテ』では一曲目の「アバリンクラ」から、前ドラマーとの違いというか、「頑張り」を浮き立たせてるんだよ。

RS:

というと?

TK:

じゃーんじゃーんじゃーんじゃーんじゃんじゃーんというリフで、ギターもベースも最後の音伸ばしっぱなしでしょ。何回も繰り返すのに、全部伸ばしっぱなし。
これやられると、ドラマーはキツイんだよ。変化は全部ドラムでつけなきゃならない。ドラマーに力がないと、全然つまんない曲になるはずだ。ギターのオブリとかで変化をつけてくれると、ドラムは楽なんだ。それに合わせて叩けば済むから。

RS:

なるほどね・・・。

TK:

トーマスの場合、いくらでも引き出しを持っているから、本領発揮とばかりに自由自在に叩きまくってる。並みのドラマーなら、何で俺ばっかり創意工夫しなきゃならんのー、ちったあみんな手伝ってよーとなるところだよ。

RS:

確かに。むしろ嬉々として創意工夫してる様が目に浮かぶ(笑)。ライヴでもニッコニコしながら叩いてたもんなあ。
まあ公平を期して言うなら、俺らはセオドアの生のドラムは聴いてないわけでさ、ライヴでセオドアを聴いたらやっぱり「す、すげえ」って今でも思うかも知れないよね。

TK:

それはそうだろう。だけどバンドへの貢献度ということで言えば、トーマスには及ばないよ。関わり方の質そのものが違うっていうか。

RS:

そこが一番肝心だよね。いいドラマーを見つけたもんだよな。でもそういう話聞くと、『アンピュテクチャー』もう一回トーマスで録り直してくれんかな、と思っちゃうよ(笑)。

TK:

まあ、今のままでも十分いいアルバムではあるけどさ。

ライヴ―圧倒的な音のプレゼンスと律動 live2008

TK:

しかしトーマスのドラムの話はおいても、凄いライヴだった。俺の場合、ここまで演奏で圧倒されたロックのライヴは他にないんじゃないかと思うよ、お世辞抜きに。ツェッペリンの全盛期はきっとこんな感じだったんだろうな、と想像したよ。

RS:

俺も純粋に演奏ということで言えば、ここまで下半身がじっとしていられなくなる演奏は生まれて初めて(笑)。もう、「持っていかれそうになる」感じだったよ、延々と。それがロックとしてなのか、サルサとしてなのか(笑)、よくわかんないんだけど、まあ両方なんだろうな。

TK:

俺も動きたかったけど、周りがギッシリだったし、手にカバンと飲み物のカップ持ってたし。

RS:

俺、カップは「ゴリアテ」の途中で捨てたよ。っていうか、気がついたら落としてて、足元ビシャビシャ。我を忘れてた。

TK:

「ゴリアテ」ハイ・テンポ・ヴァージョン、カッコよかったな。

RS:

ハイ・テンポなのに、スタジオ版の倍くらいの長さでな。
凄いといえばKも凄かったよ。あのオール・スタンディングのフロアでさ、スーツにネクタイ姿で最後まで通したの、お前くらいだぜ(笑)。

TK:

しょうがねえじゃん。仕事帰りでギリギリだったんだから。

RS:

よく暑さで失神しなかったな。みんなTシャツ一枚でも汗びっしょりだったのに。

TK:

だから、脱ぎたくても脱げなかったんだって!

RS:

なんだ。俺、ウケ狙ってんのかと思ってた(笑)。

TK:

んなわけねーだろ。実際のとこ、暑さなんて忘れるくらい気持ち良かったんだって。

RS:

ところで、律動感ということではベースのホアン・アルデレッテも、レコード以上のインパクトがあったな。

TK:

正直俺、あんなにすごいベーシストだとは思ってなかったよ。ギター、ベース、ドラムの掛け合いのところでは、ホアンのベースのところの歓声が一番大きかったよね。みんな驚いたんじゃねえかな。

RS:

派手さは思ったよりなかったけどね。地味だけどすごい。みぞおちに来るってやつ。
ただ他のメンバー、特にパーカッションのマルセルとセカンド・ギターの・・・・誰だっけ(笑)は、ほとんど居るんだか居ないんだかわからん感じだったな。見せ場のある・なし、じゃなくて。

TK:

全体のアンサンブルというか、厚みを整えるためには必要なんだろ。

RS:

そうなんだろうけど、あのドラムとベースを目の当たりにしちゃうとさ、「厚み」なんてこれ以上要るか!って気にならない?まあマルセルは、レコードの方では所々いい味出してるけどね。

ライヴ─“うた”の聴こえてくる地平 Cedric

RS:

これは枝葉の話かもしれないけど、個人的に一つ感心したのは、MCが全然なかったことね。

TK:

最後の「Good Night」を除けば。

RS:

うん。もちろん、一般論としてMCが不要ってことじゃないんだけど、マーズの場合は正解だというのを、実感できたんだよね。というのは、一頃までライヴではかなりラフな歌い方をセドリックはしていたと思うんだけど、今回は意外なまでに丁寧に、じっくり歌いこんでいたでしょ。

TK:

そうね。音もほとんど外さなかったし。

RS:

そうそう。最近は大体こんな感じなのかな?
で、じっくり歌いこまれたってさ、あの難解な英語の歌詞で、何歌ってるかなんてさっぱりわからんわけよ、結局は。だけどそれに構わず歌いこむ。わかってない日本人の目を見据えてね。ところどころバックが静かになって、セドリックの声が響き渡る、そんなシーンでは特にじっくりと、言い聞かせるみたいに。
俺その時、いつセドリックの口から「アキハバラ」って言葉が出てくるだろうと、待ち構えてたんだよ。自分でも予想外なことに。

TK:

ふうん?

RS:

結局は出てこなかったよね。でも、実際その言葉が、あの静かな、緊迫したシーンのどこかで出てきたって、まったく違和感はなかったはずでしょ?

TK:

まあ、確かにね。

RS:

これってとっても大事なことだと思うんだよ。今にも出そうだと感じていた、ってことがね。セドリックは秋葉原の事件(注:6月8日。メンバーの日本到着はおそらくその翌日か)のことを耳にしていたはずだと思うんだけど、そうじゃなくても別にいいんだ。彼の声や、彼のテーマを全身全霊で歌いこんでる姿に触発されて、俺たちは俺たちのその時心に湧いてきたものを投影しながら、耳を傾けてる。
俺にとって、「うた」っていうのはそういう地平に存在するんだよ。地平、なんてちょっと抽象的な言い方ですまんけど(笑)。

TK:

英語とか日本語とかは・・・

RS:

関係ない。マーズ・ヴォルタというアメリカのバンドを前にして、結局は自分の中にある思いを鏡に映しているんだから。あのハイ・テンションの大音響の中にさ、そういう内省的な空間を演出できるというのは、やっぱりただごとじゃないというか。

TK:

やっぱりプログレというか。

RS:

彼らの場合、パンクを通過してのプログレ、ってことに意味があるんだけどね。オマーとセドリックは特に、「音に酔って自分を甘やかす」類のロックとはあらかじめ切れているし。
そんなこんなで、全然客に媚びることなく、かといってわざと冷淡に振る舞うでもなく、MC抜きで「うた」の世界のみを果てしなく展開していくのがさ、実に自然に感じられたんだよね。

TK:

俺はね、CDの『ゴリアテの混乱』は、当たり前だけど録音だし、どこか夢物語として聴いていた気がする。

RS:

夢物語?・・・・完成度が高すぎて、ってこと?

TK:

いや、そうじゃなくて。マーズがどうこう以前に、たとえば『ゴリアテ』も一枚のパッケージ化された商品として聴いていたってこと。

RS:

それは普通と言えば普通なんだろうけどね。

TK:

うん。ただそれって、テレビや新聞のニュースで悲惨な事件や戦争を見ても、どこか無感覚になっているのに似ている。当事者にとってはとんでもない事柄でも、テレビの画面に映るショーとしてやり過ごしてしまう。マーズのライヴ体験は、まさに事件の現場や戦場に居合わせたような感覚だったわけ。ライヴを見て、これは夢物語なんかじゃない、現実に存在する音楽なんだと実感したんだよ。
あそこまで全開バリバリで、持てる力を出し切るロックが今でも存在し得るのだということを目のあたりにして、うれしく思うと同時に、反省したよ。あんたも限界までやったらどうなんだ、と言われた気がするんだ。

『ゴリアテ』の宴のあと TMV2007

RS:

「限界」と言えば、アルバム『ゴリアテの混乱』自体が一つの限界というか、到達点という感じがするよね。

TK:

文句なしに最高傑作だろうね。

RS:

ただ同時に、マーズ・ヴォルタの第一章はここで終わり、という感触も俺にはあるんだよね。新しいメンバー入れたばっかで「終わり」というのもヘンだけどさ、なんかそんな感じがする。

TK:

ああ、なんかわかるよ。

RS:

たいていのファンはセオドアからプリジェンへの交代、という一大事をもって、新境地を開いた、みたいな印象の方が強いようなんだけど・・・あるいはメンバー自身そう思ってるのかも知れないけど、俺は「でもこのままこのスタイルで行くかなあ?」っていう方が気になるというか。
そこかしこに新しい展開への萌芽みたいのがあるでしょ。たとえば16ビートのダンサンブルな「イリヤナ」とか、「スースセイヤー」のエスニックな曲調とか。でもそういうのを単にこれまでの鋳型に流し込んでまとめる、だけじゃいずれ物足りなくなってしまいそうで。

TK:

いや、やつらは金太郎飴みたいにこの音を再生産し続けるようなことはしないよ。もっと進化していくに違いないと俺は信じているよ。バンドらしいバンドになったことによって、オマーの曲作りも変わっていく気がするし。

RS:

そうだね。実際その意志も能力もある連中だからね。次の作品はこれまでのイメージを一新するものになるんじゃないか、って予感がする。 ただその前に、一度今のメンバーでカヴァー・アルバムを作ってほしいと思わない?

TK:

ああ、それいいかも!最近ボーナストラックで何曲か演ってるよね。ピンク・フロイドとかソフト・マシーンとか、かと思えばシュガーキューブスの「バースデイ」なんて、意外な選曲で。

RS:

スージー&ザ・バンシーズとか。お前らほんとにアメリカ人かよ?(笑)って。彼らのルーツが分かるだけじゃなく、彼らがロックの何を「武器」と考えているかがよくわかる選曲だったりしてね。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが2000年に『レネゲイズ』っていうカヴァー・アルバムを出していて、これが見事な作品なんだけど、今のマーズだったら同じくらい、いやもっとすごいアルバムが作れる気がするよ。

TK:

なるほど。次のオリジナルの新作に行く前に、そっちを通って行っても面白いかもね。まだまだ楽しみは尽きないな、このバンドに関しては。

RS:

長生きするのも悪くないと思わせてくれるよ(笑)。ということで、シメておくか。

TK:

結局最後はオヤジのセリフになるんだな(笑)。


『ゴリアテの混乱』発売前に、拙ブログ「弱い文明」にてタイトルThe Bedlam In Goliathを解題した記事も、興味のある方は併せてご参照ください。
 『The Bedlam In Goliath』が待ち遠しい




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